次に、欧米における自由主義、民主主義、資本主義についてです。
小室直樹氏は、アメリカの独立宣言は「この幼い共和国をシーザーから守ること」を重視したと指摘しています。ギリシャにおける共和国を手本にして作ったのであって、それほどまでにギリシャの政治思想の影響は大きかったのです。
「自由主義とは、政治の権力から国民の権利を守ることであり、民主主義とは政治権力に国民が参加すること」この二つは全然違うことであると述べています。
近代自由主義の発端は、国王といえども議会を通さなければ税金を課すことができなく、法律を作ることができないということです。これがリベラリズムであって、つまり自由主義の第一歩であるとしています。税金をめぐる闘争から清教徒革命が起き、共和制になったわけです。
王制復古後も、王が絶対権力を持っているというのが根本的基調だから、王の絶対権力を少しでも制限しよう、さらには議会に王を取り替える権能を与えよ、それが名誉革命で、近代自由主義の第二段階です。
本国の英国よりも先に、アメリカではすでに自由主義と民主主義が結合していたわけで、税は議会を通さなければ課せられない。これは英国においてもずっと前からそうでしたが、そのころの英国の議会は国民の代表ではなかったのです。ところが、アメリカではすでに国民の代表たる議会がありました。権力への住民の参加、デモクラシーという意味ではアメリカのほうが進んでいたのです。それから独立戦争になり、ついにアメリカが独立しました。これで自由主義と民主主義が一本になったのです。
「言論の自由こそ議会政治の生命である。代議士が、自分の独立した意志で国民の欲することを自由に発言する。これこそが、議会政治の要諦である」
自由主義でもデモクラシーでない場合があり、デモクラシーでも自由主義でない場合があるわけですが、現在、欧米諸先進国において支配的であるのは、両者を兼ねたもの、すなわち、リベラル・デモクラシーです。
清教徒革命こそ、英国における自由主義の事始めであり、言論の自由とは、王の絶対権力からの自由であったわけです。
王と貴族と庶民による政治が立憲政治への第一歩であり、
その急所は、議会におけるそのメンバーの言論の自由はけっして妨げられることはないことにあります。これぞ、自由主義の確立であり、また、民主主義の起源でもあるわけです。
ユダヤ人で首相にまで登りつめたディズレーリは、立憲政治の原則、立憲の常道を確立しました。
1.選挙公約はあくまで守らなくてはならない。守れないなら下野すべし。
2.対立政党の政策をかってに盗んではいけない。
3.君主の信任があるという理由だけでは、政治権力を持っていてはいけない。
いちばん大事なことは、議会における論争によって国策や政権党が決まることとしています。
「マックス・ヴェーバーの理論によると、資本主義は資本主義の精神によって成立している。これが第一の前提。ところが、いったん資本主義が成立すれば、資本主義の精神はいらなくなる。疎外される。これが第二の前提。
そうなると、資本主義の精神なき“ゾンビ経済”になる」
マルクスの言う疎外から逃れるためには、市場法則(例:需要と供給)は、権力者が命令したところで、如何とすることもできないことを理解することにあると指摘しています。
市場法則に逆らって、権力者が市場に無理な命令をすれば、市場の報復を受けるわけです。
市場はあくまでも、固有の法則に固執し、統制は機能しなくなってしまいます。
「日本の官僚の伝統主義は『従来正しかったことは今でも正しい』、『今までのやり方を踏襲すれば今度もまた成功する』
過去において日本に高度成長をもたらした諸政策の基本パターンが、今日でも適切であると思い込んでいる」
と指摘したうえで
「マックス・ヴェーバー『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』でいちばん大切な主張は、宗教的に働く、働くことが救済の保証になること。これが一つ。
働くってことは、労働だけでなく経営することでもある。経営者は経営すること自体に喜びを感じなさい。それが神に対する義務である。
二番目に大切なことは、いくら儲けても、その儲けは消費しないで投資しなさい、ということ。それが資本主義の精神が健全な場合」
疎外されて健全でなくなることが、日本経済が滅びかけている理由であると述べています。
根本的なところで資本主義の精神が失われたわけです。
資本主義の精神とは、宗教的に働くことが救済の保証になるとしています。
山本七平氏が指摘した、禅僧の鈴木正三も儒者の石田梅岩も労働が修行そのものであり、絶対化しています。
これは、石田梅岩がいう「天理即本然の性」=「本心」=「宇宙の秩序」が、資本主義の精神と同じであるならば、宗教的に働くことが、絶対的な“integrity”の必要条件であると言えるのではないでしょうか。
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