2012年9月23日日曜日

ものづくりの現場から③

電力を消費する側のモーターがこんな現状なのに対して、電力を供給する側の発電機はどうかというと、これがまたもっとお寒い状況と言わざるを得ません。

脱原発から自然エネルギーへと叫ばれています。
自然エネルギーは太陽光発電がブームになっているようですが、将来的には風力、小水力(大型のダムを造らず河川や用水路の水流を使うものです。)、地熱、排熱を利用した発電等のベストミックスになってゆくと思います。

半導体のようなハイテクを使う太陽光発電は私は専門ではないのでよくわかりませんが、他のものは皆発電機を回して電力を供給します。

まず風力発電なのですが、大型のものはさておき,小型のものはモニュメント化(単なるお飾り)してしまっているのが実情です。
日本の平均風速は3m/秒でして、現状の風車は5m/秒ないとまともに回らず機能していません。

小水力発電はどうかというと、水車を回すのに水の落差が小さいところを使うわけですから、当然水圧も小さくて回せなけばなりません。

大きな水車を使えば良いかというとそうではなく、水車が大きければ大きいほど発電機のシャフトにはギヤによる増速により回転数が増えた分だけ伝わるトルクは小さくなってしまいます。風車が微風だと回らないのと同じようなことになってしまうのです。

地熱、排熱をはじめ熱を利用した発電は通常水蒸気でタービンを回し,発電機を回して発電させます。
現状のタービンによる発電機は300℃の熱がないとまともに回らずやはり機能しません。

地熱排熱による熱湯(温泉地のお湯や工場の廃水)を有効再利用できると大きな恩恵にあずかれるのですが、これらですと熱が100℃から80℃でして、触媒にフロン等を使い水蒸気の圧をあげるのですが、その分大幅に発電量は少なくなってしまいます。

これらの発電機は皆同じ根本的な問題を抱えています。
その主な要因はコギングというものです。

コギングとは、モーターのシャフトを手で回してみると、カクカク引っかかりがある、あれです。
コギングは鉄と磁石が引き合うために発生するもので、効率をロスさせる原因となっています。

通常モーター、発電機のコギングをなくすための方法は、突極の角を丸めたりして、形状を削って変えることにより軽減しています。しかしこの方法ですと出力を弱める要因となり、相反する結果になってしまいます。

現状の一般的な風車発電機はコギングを無くすために、コアレス発電機を使っています。
コアレスとは、鉄のコア(コイルが巻かれているところ)を使わないものです。
コアに鉄を使わないのですから当然磁石との引き合いがなくコギングはありません。

しかしモーターも発電機も一般的なものは(高価なもので例外もあります。)鉄の量が多ければ多いほど出力が大きくなるので、鉄の量を減らすということは、発電する量が少なくなってしまうことになるので、ここが問題になっています。

現在、私はまったく発想を変えてコギングを無くすことに成功し、その開発に取り組んでいます。
日本の製造業のなかでも、素材産業は他の追随をゆるさない世界に冠たるものがたくさんあります。

私は10年ほど前から、これはすごい素材だと思い、何とかモーター、発電機に有効に使えないかと試行錯誤を続けてきたものがあります。

それは、某大手MM社の複合軟磁性材というもので通称圧粉材と呼ばれているものです。
モーター、発電機というものは通常ケイ素鋼板という薄い板状のものを幾重にも積み重ねて作ります。

これは鉄のなかを磁力線が通ると渦電流というものが発生し鉄損というロスを生んでしまうからです。板は薄ければ薄いほどロスが少なくなります。板と板の間を絶縁して磁力線を通さないようにしているのです。

圧粉材はその名の通り、粉の粒子ごとに絶縁してあります。そうすることによりどんな形状でもソリッド(個体状)なので、金型による一体成型でコアを作ることができるのです。しかしまだごく限られた一部の用途でしか使われていません。
MM社とは以前、この圧粉材で共同出願した特許が昨年登録になりました。

現状のケイ素鋼板ですと、シャフト(軸)に対して水平に積み重ねていくため、磁気回路は平面の2次元でしか構成できません。軸方向には磁力線を通せないからです。
圧粉材ですとソリッドなので縦横斜めどの方向でも磁力線を通すことができます。つまり3次元の磁気回路を構成できるのです。

よく皆さんも「その話は次元が違うねぇ!」とかお使いになることがあると思いますが、これはまさにその通りでして、2次元が3次元になることにより、さまざまなメリットが生まれます。

今までモーター、発電機というものはケイ素鋼板を積み重ねて作ってきたわけで、それが当たり前になっていました。逆に言うと2次元という制約のなかでしかものを考える(設計する)ことができなかったのです。

前に述べたコギングの問題もこのソリッドの素材を使うことで2次元から3次元への発想の転換により解決できています。

MM社の圧粉材は本当にすごい素材です。
私の卑近な例で説明しましたが、日本には、このような高付加価値を生む素材がたくさんあるのに、既成概念にとらわれてしまっていると宝の持ち腐れになってしまいます。

よく中国、韓国は日本のまねして成長したと言うひとがいますが、日本も50年前はアメリカのまねをして成長してきたのです。

しかしアメリカは経済が停滞しているとはいえ、アップル、グーグル、マイクロソフト等ベンチャーから立ち上げた巨大企業を輩出し続けています。
アメリカにできてなぜ日本にできないのでしょう?

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